河内長野市の歯医者・歯科医院 ふくしげ歯科 千代田駅徒歩10分 歯周内科(歯周病治療)

ふくしげ歯科
〒586-0006 大阪府河内長野市松ケ丘中町1290-1
コノミヤ河内長野店 2階

フッ素入り歯磨き粉は危険ってホントなの?(結論:ウソでした)

あれはいつのことだったか、ずいぶん前に『「フッ素入り歯磨き粉は危険!がんや骨肉腫、ダウン症の原因との指摘も」というポストに対しての専門家としての意見を聞きたい』というリクエストをいただきました。

 

この話題については以前も軽くブログに書いたのですが

都市伝説を検証:「フッ素は危ない」って本当?現役歯科医師が謎に挑む!

 

その後もこのようなポストが繰り返し繰り返し流れ来て、一般の方はもちろんのこと、歯科の専門家も混乱しているので「これは一度ちゃんと調べてみるか」とやりかけたはいいのですが、国内外の論文を検索して果てしなく読み続けるという作業に心が折れて何度も挫折してきました。しかし、ついに本日コツコツ取り組んだ成果をお届けできるところまでたどり着きました。無責任なことを思いつきで言うのは簡単ですが、それが正しいのか間違っているのかを検証するのは何十倍も手間暇が掛かります。この手間暇の差がFacebookやTwitterなどにいい加減な言説があふれてしまう原因なんですね。

 

今回は延々と論文の紹介が続いて退屈かもしれません。長いので覚悟してご覧あれ!

 

元ネタはこれ

問題とされていた文章ですが、Google先生の検索結果のトップにあがっているこれがネタ元なんでしょうねぇ。

 

スクリーンショット 2015-06-27 18.25.51

 

諸般の事情でとりあえずスクリーンショットのみにさせていただきまして。

 

あれ?ここってあのときの・・・・

 

子育て中のお母さんの悩み。インフルエンザワクチンって本当はどうなの?

そう、これを書いたときに出てきたサイトでした。これは「WHOがインフルエンザワクチンを推奨していない」というデマポストを無記名で掲載していて、WHOのサイトを普通に調べてみるとまるっきり嘘だった、という英語が苦手な日本人を馬鹿にしたような出来事でした。苦情が多かったらしくこのポストはすぐに消去されましたが、噂によるとサイト運営者は問い合わせに返信しないという運営スタンスだったようです。広告料を稼ぐためなら嘘でも何でも平気で掲載して、人々に医学的な間違いを犯させ人命に危険を及ぼし、それについて訂正も謝罪もしない、いわゆるバイラルメディアですね。バイラルメディアについてはこちらをご覧ください。

 

最近話題のバイラルメディアとは?

バイラルメディアの書き手のモラルハザードが起きる理由

そもそも、掲載されているサイト自体がそういう類いのところなので信憑性に不安を覚えますが、それは置いといてしっかり検証してみましょう。

 

ここで、ハッキリと申し上げておきますが、私は絶対的フッ素推進派ではありません。こういうのが流れてくるたびに、嘘じゃない可能性も十分あるという認識でみていました。今まで自分たちがやってきた事が間違いだったなら、なるべく早く改めたいと思っているからです。過去のやり方にこだわらず速やかに最善の方法を採用するのは臨床の最前線に立つ者の大切な役割だと思います。

 

前回と違って今回は記名ポストなので、まずは書いた方の事を調べてみました。しかしながら医療ライターと自称されている事以外の情報は何も得られませんでした。検索してもほんの数個のポストがあちこちのサイトに繰り返しコピーされてヒットするだけです。本名なのか、どのような経歴の方なのか、医学や科学の知識がある方なのかは現在のところ不明です。

 

さて、文章の中身を見て弱ってしまいました。科学の世界では、何か論争になることがあって議論するときは根拠となる文献などが示されていることが多いのですが、これはそういった一次ソース(学術論文とか医学書)が全く示されていません。これでは前提となる事実をお互いに共有しながら議論を重ねていくことができません。しかたがないので過去に発表された論文を大量に検索して「この人が主張している根拠はこれかな?」というところから調べる羽目に(泣)。科学ライターや医療ライターなどの職業の方は、定説を覆すことをセンセーショナルに主張するのであれば、論拠を示すようにしていただきたいものです。信頼できる情報かどうかを調べるのに莫大な手間が掛かりますのでよろしくお願いします。

 

で、この方がフッ素入り歯磨き粉の何が危険だと主張しているのか?要約すると以下のようになります。

 

1.効果を疑問視する専門家もいる。フッ素が歯に取り込まれることはないから効かないのではないか?

2.2000年までの調査では、効果が認められたフッ素洗口。近年は虫歯減少の効果がみられなくなった。

3.フッ素を大量摂取すると急性中毒症状が起きる。

4.低濃度で長期間採るとあらわれる害

(例1)斑状歯、骨硬化症になる

(例2)骨肉腫

(例3)ダウン症

(例4)フッ素を摂取する年齢が若ければ若いほど発がんの危険が高まる。特定の部位の発がん率を上げるのではなく、全体としてがんの発生を増加させる。日本でフッ素を水道水に添加した場合、全国でがん患者が3万人増えるとする推計がある。

(例5)飲み込んだフッ素はまず胃の中で毒性の強いフッ化水素酸に変わり、血液に乗って全身を巡る。フッ素は成人では約90%が尿中に排泄され、残りは骨に沈着する。子供は、30~40%が骨に沈着するといわれている。これにより、骨の異常やがんの発生率が高まると考えられている。

(例6)飲料水にフッ素を添加している地域では、注意欠如多動性障害(ADHD)の子どもが多い。ハーバード大学をはじめとした研究機関は、ADHDの原因のひとつとしてフッ素を挙げている。

 

では、ひとつずつ詳しくみていきましょう。無料でアクセスできる資料が見つかったものについてはリンクを張りました。

 

1.効果を疑問視する専門家もいる。フッ素が歯に取り込まれることはないから効かないのではないか?

 

効果を疑問視する専門家というのは、これだということで筆者が挙げているのが、下記の講義録です。

「生体アパタイト結晶形成機構とフッ素イオンの影響」(明海大学・筧光夫教授講演記録参照)

ちなみにこれはちゃんとした論文ではなく、あくまでも講演内容を記録しただけのものです。

内容は、フッ素塗って長い時間おいても、エナメル質のアパタイトにフッ素は取り込まれていない。フッ化物含有の水で育てたラットの歯と骨には構造変化が起こっていて、濃度が濃くなると結晶構造が乱れ崩れやすいため歯質強化に役立たない、という結果です。

 

同様のことを調べているものがないかと論文を調べてみたところ、下記のものが出てきました。

 

小児歯科学雑誌
Vol. 45 (2007) No. 1 p. 65-73
酸性フッ素リン酸溶液の性状とエナメル質の耐酸性の向上に関する検討
何 陽介1), 岡本 佳三2), 馬場 篤子3), 本川 渉3), 宮崎 光治4)

1) 福岡歯科大学成長発達歯学講座成育小児歯科学専攻 2) 福岡歯科大学歯科医療工学講座生体工学分野 3) 福岡歯科大学成長発達歯学講座成育小児歯科学分野 4) 福岡歯科大学

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspd1963/45/1/45_65/_pdf

この実験では普通にフッ素が取り込まれていて歯が酸に溶かされにくくなっているみたいです。(歯が酸に溶かされにくい性質を耐酸性と呼びます。)

 

 

歯のフッ素症 (斑状歯) と齲蝕や健常なエナメル質を含む比較対照歯との臨床的ならびに病理組織学的研究
佐藤 律子1), 片桐 史子1), 石井 馨1), 片桐 正隆1)

1) 日本歯科大学新潟歯学部口腔病理学教室

 

この論文では、飲み水にフッ素をたくさん含む地域で育った人の歯を調べたところ、フッ素症による白斑ができている歯は普通より耐酸性(酸で溶けにくい性質)が高いという結果です。

 

Effects of Fluoride Varnish on the Dentin(Kenshi SHINKAI1)JOURNAL OF DENTAL HEALTH Vol. 29 (1979-1980) No. 2 P 134-1441) Department of Oral Health and Preventive Dentistry, Gifu College of Dentistry

 

この論文ではフッ素バーニッシュというタイプのフッ素を歯に対して使うと、歯の象牙質にフッ素が取り込まれ、その結果酸に対して強くなった、という結果です。ちなみに、これはエナメル質ではなく、象牙質という歯の内側の部分なので、すり減ってエナメル質がなくなっている歯やお年寄りの歯の根元とかの虫歯予防ってことになりますね。

 

口腔病学会雑誌
Vol. 38 (1971) No. 4 P 483-495
生体内における歯質の酸溶解性の測定
奥野 忠信1)

1) 東京医科歯科大学第1歯科保存学教室

 

これには「弗素剤塗布の酸溶解性減少の効果は1週後には認められたが, 4週後ではすでに失われ, 10週後には統計学的には有意差とならなかったが逆に増加した疑いさえあった」とあります。なるほど。

 

口腔病学会雑誌
Vol. 38 (1971) No. 4 P 483-495
生体内における歯質の酸溶解性の測定
奥野 忠信1)

1) 東京医科歯科大学第1歯科保存学教室

 

この論文ではフッ素はフッ素洗口でも、フッ素塗布でもエナメル質に取り込まれてたよ。という結果でした。

 

The Journal of the American Dental Association
Volume 113, Issue 3, September 1986, Pages 383–388

Cover image
Intraoral effects of a fluoride-releasing device on acid-softened enamel

 

米国歯科医師会雑誌「酸軟化エナメル質のフッ素徐放性デバイスの口腔内効果」

フッ素をちょっとずつ放出するものを口の中に入れといたら、歯にフッ素が取り込まれてて、酸に溶けにくくなってましたよ、という結果です。

などなど見渡すと、多くの実験結果がフッ素を歯に作用させると歯の中に取り込まれて酸に溶けにくくなっていた、という結果となっていました。

 

2.2000年までの調査では、効果が認められたフッ素洗口。近年は虫歯減少の効果がみられなくなった。

日本の最近の文献に当たってみました。

 

◆「知立市におけるフッ素洗口による来迎寺学区児童の齲蝕の推移」
竹内尚子
させ竹内歯科医院
小児歯科学雑誌 44(1): 110-111, 2006.

 

この調査では2002年以降にフッ素洗口を開始した愛知県の知立市での調査結果です。規模の小さな調査ですが効果はあるという結論です。

 

◆「小学校におけるフッ化物洗口法によるむし歯予防効果~学校歯科健診結果集計から~」
木下明美, 山内裕子, 藤崎淳一郎, 豊嶋寛司1), 森木大輔2)
日向保健所, 1)美郷町立北郷歯科診療所, 2)中央保健所
口腔衛生学会雑誌 58(5): 566-566, 2008.

 

この宮崎県の調査では、2004年にフッ素洗口を開始しました。そして2004年の開始前の時点と3年後の2007年の時点を比べると虫歯は減っていたという結果が出ています。

 

◆「小学校におけるフッ化物洗口経験が成人のう蝕有病状況に及ぼす影響」
松本沙耶香1), 高橋収1), 出口知也1), 杉本智子2), 葭原明弘1), 宮崎秀夫1)
1)新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔健康科学講座予防歯科学分野, 2)新潟県福祉保健部健康増進・歯科保健係
口腔衛生学会雑誌 58(1): 65-65, 2008.

 

これは2008年に発表された新潟県での調査結果です。フッ素洗口を行った時期は数十年前ですが、その子たちが成人してからの虫歯の発生について調べています。子供の頃の洗口が大人になってもしっかり効果をあらわしている事が分かりました。

 

というわけで(最後のは長期経過で趣旨が違っていますが)2000年になってからフッ素洗口がぜんぜん効かなくなったというわけではないようです。

しかし、よく考えたら題名が「フッ素入り歯磨き粉は危険!」なのに何でフッ素洗口の話が出てくるんでしょうね?

 

2.フッ素を大量摂取すると急性中毒症状が起きる。

当たり前です。食塩だって一気にガバーッと食べたらきっちり中毒症状が出ますし、もっと食べれば死ぬことも可能です。ちなみに、急性中毒症状起こすぐらいフッ素を摂取しようとすればどのぐらい歯磨き粉を飲み込めばいいのかというと以前

「フッ素は危ない」って本当?現役歯科医師が謎に挑む!

で説明したように

約20kgの6歳児であれば、歯磨き剤のチューブ(950ppm 60g)を1.7本をラッパ飲みしなければ中毒を起こせません。60kgの大人であれば5本ほど一気飲みしなければならない計算になります。これって本当に危険と言えるでしょうか?

 

3.低濃度で長期間採るとあらわれる害

(例1)斑状歯、骨硬化症

これも昔から知られていることで、歯科大学でも詳しく習います。物には限度というものがあり、何でもとり過ぎはいけません。そもそも薬は微量だと薬として働き、大量だと毒として働くものが多く、そのため適切な使用量というものが設定されています。

 

題名である「フッ素入り歯磨き粉は危険!」なのか、という事については
60kgの大人で2L、20kgの子供で0.6Lの水を摂取するとして(代謝の激しい子供は本当はもっと多いんでしょうけど)、WHOの水質基準では1.5ppm以下、我が国の水質基準では0.8ppm以下となっています。より厳しい我が国の基準でいきますと

 

0.8ppm=0.8mg/L

 

ということは、ごく軽微なフッ素症を起こすためには、大人で1日1.6mg 子供で約0.5mg以上のフッ化物を摂取しなければならず、歯科医院で販売されている比較的濃度の濃い歯磨き粉は950 ppmで、それだと1.7g毎日食べてもごく軽微なフッ素症すら起こすことができません。ま、普通うがいするからほとんど口には残りませんしね。子供だと0.5gですので、うがいが上手にできない子だと食べちゃう可能性があります。それゆえ、メーカーはうがいができない小さなお子さん用の歯磨き粉のフッ素濃度を低くしたり、泡状にしてごく少量でも口全体に行き渡るようにするなどの工夫をしています。ま、実を言うと950ppmのを毎日少々食べても、急性中毒のような強い症状は出ず、一部の人(みんなじゃない)の永久歯の表面がちょっと白くなる程度のことが起こるだけです。

 

ちなみに、この手の主張をしている人のポストやサイトに載っているとんでもなく変色したり変形したりしている歯牙フッ素症の写真は、井戸水などにものすごくたくさんのフッ化物が含まれている地区で起こったフッ素症です。実際、世界にはフッ化物濃度が15ppmなんて井戸もあるみたいです。日本の基準値のなんと約20倍もの濃度なのです!そういう写真をあたかも「低濃度フッ素でこうなる」的に使うのは反則ですね。

 

(例2)骨肉腫

日本の文献では動物細胞の培養実験におけるフッ化ナトリウムの影響を調べたところ

 

◆フッ化ナトリウムによるラット椎体由来培養細胞の染色体異常と悪性形質転換
三橋守泰, 筒井健機
日本歯科大学歯学部・薬理
歯学 82(5): 1185-1185, 1995.

 

フッ化ナトリウムは培養ラットの特定の細胞に対して染色体異常誘導能を持ち, これらの細胞を悪性形質転換することを示唆している。ほう!ところが、よく見てみると、これまた実験に使った濃度がものすごくて0.5~2mMのものを直接細胞にふりかけたそうです。

 

0.5~2mM = 21~84ppm

 

では計算してみましょう。歯磨き粉などに含まれるフッ化ナトリウムの最大量は950ppmで普通は多くても0.5g程度使用し、使用後はうがいしますので、口の中に残っても0.1 gをはるかに下回ります。体重60kgの大人の場合、全身に行き渡った場合のフッ化ナトリウムの濃度は60万倍に希釈することになりますので、0.0016ppmとなりまして、血液だけに行き渡るとしても体重の約1/13なので0.02ppmと比較しようがないほどの低濃度です。

 

ほとんどの生体反応では、何らかの物質が生体や細胞に影響を及ぼそうとするとき、ある一定の量に達するまでは全く影響を及ぼすことができません。例えば、水に食塩の小さな結晶を1粒ずつ投下し、徐々に濃度を上げていくとします。塩味がする、と気づく、すなわち味覚を感じるセンサーが反応し、神経に「塩味がするよ」という電気信号が発生するには、ある一定以上の濃度が必要です。それ以下の濃度であれば全く何の反応も起こりません。つまり、生体の反応には閾値(いきち または しきいち)というものがあり、閾値以下では反応を起こさせることができないのです。閾値という考え方は健康に関する情報を読むときには欠かすことができない概念なのでみなさんも覚えておいてくださいね。

 

にしても、モル濃度の計算とか懐かしいわぁ!物質の生物学的な作用を知るには閾値の概念や濃度計算ができなければいけませんし、放射線や放射能の事を心配するなら物理の基礎知識を持っていなければなりません。世のお母さんがちまたにあふれるウソを見抜いて、我が子の健康と安全を守るには、サインコサインに限らず数学や科学の知識は必要不可欠なんですねぇ。

 

◆NaFのニワトリ胎児頭蓋冠表層由来細胞に対する影響について
鈴木邦治, 村井正大
日本大学歯学部歯周病学教室
日本歯周病学会会誌 29(2): 315-324, 1987.

 

フッ化ナトリウムのニワトリの骨や骨膜から分離した細胞に対する著明な直接的促進効果は認められなかった。

と書かれています。(こっちは骨粗鬆症治療薬としてのフッ化ナトリウムについての実験で、骨の増殖に対しての直接的作用はないという結論のようです)

 

 

 

で、海外の論文を見てみるとありました。フッ化物が骨肉腫の原因であるという根拠であろう文献がこちら。

 

小児および青年のための骨肉腫の発生率
ハーバード大学歯学部

 

これによると「フッ化物への曝露の度合いと、骨肉腫を発症するリスクの関連は女子では認められず、男子では6〜8歳をピークに5~10歳の間で明らかに認められました。」とあります。

ほうほう!噂の元はここだったのか!と思ったのですが中身を詳しくみると

20歳以下の91名の被験者と188名の対照群で観察。

年齢の標準偏差は13.5±3.5歳

男子が女子の1.5倍の人数

と書いてあります。

ということは、男性被験者は約55名で

標準偏差の13.5±3.5ということは10歳~17歳までに約2/3の人がいるはずなので55名×2/3=37名いて、従って0~10歳までには(55-37)÷2=だいたい9名いることになります。
1つの年齢につき1名とか2名しかいないのに統計的に意味のある解析ってできるものなのでしょうか?
てか、この計算で合ってる?教えて(大学の)中の人!

 

話はそれますが、これと似たような例としては

 

「離乳食の開始が遅れると、急性リンパ性白血病のリスク上昇、生後6カ月が節目」

というのがあって「ほほう!」と思いましたが、お友達の先生と「でも白血病患者に限ればたった172人。人数少ないよね」「うーん、確かにもっと数欲しいですねぇ」という話になりました。170人を超す研究でも、調査人数が少なすぎてハッキリとした結論を出すのは躊躇するわけですから各年齢にほんの数名しかいない研究では何も言えません。

 

でも、色々なことを「ああかな?」「こうかな?」と調べ続けた結果、思いがけない関連が見つかることがありますので、1本の論文を鵜呑みにせず「へえ、そんな結果が出たんだ~」とゆるやかに受け止めて、それに関する追試が行われるのを待つという姿勢が正しいのではないかと思います。かのSTAP細胞も論文が発表されて世界中で追試したけど結果が出なくて「おかしいな、おかしいな」という話になってましたよね。科学の世界では新しい発見があると、みんなでよってたかって追試を行って「どうやらこれは正しいらしい」とか「なんか違うんじゃない?」というふうになっていくものなんです。

 

さあ、横道にそれてしまいましたが、続きをどんどんいってみましょう。

 

フッ化物は、骨癌の危険因子なのか?イギリス、1980-2005で0〜49歳の間に診断された骨肉腫とユーイング肉腫の小地域における解析。

 

イギリスのこの研究では無関係という結果。しかも、高濃度のフッ素を含む地域での調査なので、摂取量は歯磨き粉の比ではないです。

 

フッ化物のレベルと骨肉腫

 

南アジアがんジャーナル

 

骨肉腫患者と健康な人の血漿および飲み水をそれぞれ比較すると、骨肉腫患者の方がフッ化物濃度が高かった。飲み水に高濃度のフッ化物が含まれていてそれをガブガブ飲むと影響が出る可能性があると言うことです。ひとつ前のイギリスの研究では無関係という結果で、この研究では、関連がある可能性が指摘されています。このように、同じようなことを調べていても着目点、研究する方法などが違うと異なる結論に到達する場合があります。だからこそ、多くの研究者による様々な追試が行われるわけです。

 

Crit Rev Oral Biol Med. 1990;1(4):261-81.
Fluoride: benefits and risks of exposure.

 

「フッ化物にさらされる事による利益とリスク」

 

この文献はフッ化物のリスクを全般的に論じています。結論は、ガンについてはラットやマウスの試験管内での影響はあるが、生体内での影響は明らかでは無いというものです。

 

アメリカ本土における飲料水中のフッ化物と小児および青年の骨肉腫の発生率

 

この研究では関係ないという結論。

 

骨のフッ素化と骨肉腫に関する評価

この研究でも関係ないとの結論です。

 

骨肉腫の症例を集めて、フッ化物の摂取量と比較してみると、フッ素濃度に関連があったりなかったり。しかも骨肉腫の症例って各年齢数百人ずつ集める、とかいう事は難しく、どうしても人数が少なくなってしまいがちです。

 

例えば100人ぐらいの骨肉腫の子供集めて、家の電話番号の末尾が奇数か偶数か調べる、という調査を世界各国の大学行ったら、そのうちいくつかは「偶数の子がかなり多かった!」という結論を得ることでしょう。だからといって「偶数末尾の電話番号は骨肉腫に対するリスク要因である」とはいえません。

 

上記のような欠点を補うための研究手法があります。それは、メタアナリシスという方法です。メタアナリシスによる研究論文は、他の個別の実験や調査の論文よりも科学的根拠のランクが最も高いとされています。要するに、問題となっていることに関する論文を全部集めて読んで分析してみた結果どうだったかということです。

 

そのメタアナリシスを行ったのがこれ!(最初からこれだけ出せば良かったのにね、って言わないで♪)

 

小児および若年成人の骨腫瘍に関する疫学調査

 

2009年12月発表のこの研究における結論は「(他の様々な要因と合わせて)報告関連があるとする報告もあるが、今のところはまだはっきりしないこれから研究でもっと分かってくるでしょう。」というものです。

 

なんとも煮え切らない結論ですが。今後の研究を待ちましょう。

 

ちなみにこれらの研究で子供がフッ素に濃厚に触れたと分類されるには、飲み水にフッ化物が多く含まれるという条件だったりします。その条件の下でさえ決定的なデータが出ない状況です。ましてや歯磨き粉ごときのごく微量のフッ素で影響が出るとは考えにくいのではないでしょうか?

 

(例3)ダウン症

 

日本の文献で関係ありそうなのはこれ。

 

◆脳性麻痺およびDown症候群児における乳歯エナメル質のフッ化物濃度分布
草部能孝1),2), 坪井信二3), 岡本卓真1),2), 福田理1),2), 中垣晴男3), 土屋友幸1)
1)愛知学院大学歯学部小児歯科学講座, 2)愛知学院大学歯学部附属病院障害者歯科診療部, 3)愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座
愛知学院大学歯学会誌 47(2): 246-246, 2009.

 

脳性麻痺の子、ダウン症の子、障害がない子を比べたら障害の有無や種類によるフッ化物濃度の差はなかった。という結果です。

 

フッ素化およびダウン症候群の発生

 

この文献では関係ないという結果

 

海外の文献を当たると

ダウン症と水に含まれるフッ素のシステマティックレビュー

 

こちらはダウン症と水のフッ素レベルとの関連について書かれた論文を全て分析したという論文で、確定的な事は言えないという結論です。

 

結論の「inconclusive」という単語ですが「決定[確定]的でない」と訳され、これまた煮え切らない感じです。

 

ちなみに、このシステマティックレビューは飲み水のフッ化物含有量が問題になっていますので、このような結果が出ていますが、歯磨き粉ごときごく微量の・・・(以下同文)

 

(例4)フッ素を摂取する年齢が若ければ若いほど発がんの危険が高まる。特定の部位の発がん率を上げるのではなく、全体としてがんの発生を増加させる。日本でフッ素を水道水に添加した場合、全国でがん患者が3万人増えるとする推計がある。

 

そもそも歯磨き粉の危険性について論じているはずなのに、またもや水道が出てきます。そのことはとりあえずおいといて、「フッ素」「水道」「がん」という検索ワードで日本語の論文を検索しますと、ちゃんとした学会誌に載せられた科学的議論における論拠となる論文は存在しませんでした。3万人ってどこから出てくる数字なのでしょう?根拠となる文献があるなら、使う側として是非読んでみたいので教えていただきたいと思います。

 

(例5)飲み込んだフッ素はまず胃の中で毒性の強いフッ化水素酸に変わり、血液に乗って全身を巡る。フッ素は成人では約90%が尿中に排泄され、残りは骨に沈着する。子供は、30~40%が骨に沈着するといわれている。これにより、骨の異常やがんの発生率が高まると考えられている。

 

ここでいうフッ素というのはおそらくフッ化ナトリウム(NaF)などの塩(えん)のことでしょう(F2などのハロゲンそのものは普通手に入りませんので)。代表的なフッ化物であるフッ化ナトリウムを例に説明しますと

 

NaF + HCl(胃酸)  ⇄ NaCl(食塩) + HF(フッ化水素)

高校で化学を習った人は平衡という概念を勉強したのでお分かりだと思いますがHFが生じるのは当たり前ですね。幸い濃いNaF水溶液をゴクゴク飲むわけじゃなく、口の中にいったん入れてはき出した残りかすが、ごくわずかに胃に入るだけなので、濃度は極めて薄いといえるでしょう。しつこいようですが化学物質が人体に及ぼす影響というのは量や濃度に大いに依存します。(この部分の記述に誤りがありましたので、訂正しました。ご指摘いただきました櫻井先生ありがとうございます。2015.9.2)

 

くどいですけど例え話として、アルコールは咽頭ガンの原因になる物質であることが知られています。要するに発がん物質なのです。お酒やみりんを入れた料理はたとえ沸騰させて煮切ったとしても、アルコール分が若干残ります。では、そのわずかな残留アルコールは危険なものでしょうか?そうではありませんね。発がん性を発揮するのは、濃厚なアルコール水溶液を毎夜のどに流し込み続ける場合ですよね。しつこいようですが物質の生体への影響を見るときは濃度が大事です。

 

(例6)飲料水にフッ素を添加している地域では、注意欠如多動性障害(ADHD)の子どもが多い。ハーバード大学をはじめとした研究機関は、ADHDの原因のひとつとしてフッ素を挙げている。

 

これまた、論拠となる文献が挙げられていませんが、探してみたところ、おそらくこれのことかな?というものがみつかりました。

 

アメリカ小児歯科学会に掲載された論文です。

「フッ素症、フッ化物への暴露、子供の問題行動の間の関連の可能性についての調査」

 

197名の7~11歳の子供をフッ素に濃厚に触れた子(74名)と、あまり触れなかった子(150名)に分けて、それぞれのグループをしらべます。父親の学歴、母親の高学歴、母親の勤務形態、学校で問題を抱えているかどうか、ADHDを含む医学的な障害、家族の状況、トラウマになるような出来事などについて調べています。

ADHDに関していえば

 

濃厚に接触した群(74名中) 6%
あまり接触しなかった群(150名中) 4%

 

これ、実数になおすと 濃厚 74名中4名、低接触150名中6名ってこれ母数が少なすぎて1名増減するとものすごく結果が変わるレベルです。

ちなみに自閉症は

 

濃厚に接触した群(74名中) 9%
あまり接触しなかった群(150名中) 10%

 

で濃厚群のほうが出現率少ないです。ADHDでの理屈を適用するとフッ素には自閉症の予防効果があるという結果になります。

学習障害は

 

濃厚に接触した群(74名中) 6%
あまり接触しなかった群(150名中) 9%

 

で、フッ素には学習障害の予防効果もあるってことになりますね。

 

もし、このデータからフッ素はADHDの原因になると主張しているんだとするならば、どうして学習障害と自閉症の予防効果に言及しないのでしょうか?それとも、他に論拠となるデータがあるのでしょうか?あるんだったら読んでみたいので教えて欲しいです。

スクリーンショット 2015-08-29 16.18.18

 

 

で、ぶっちゃけフッ素ってどうなの?

 

「基準値を超えた大量のフッ化物を含む飲料水をガブガブ飲むと何らかの影響が有るかも知れないし、無いかも知れない」というのが現在の科学の世界の共通認識のようです。歯磨き粉で何かが起きるというのはあまりにも量が少なすぎて現実的には有害なことは起こらないでしょう。過剰な量の全身適用とごく微量の局所適用をごちゃ混ぜにしているのがそもそもの間違いなんです。

 

大事なことなのでもう一度言いますよ!

 

基準値を超えたフッ素入りの水を毎日ガブガブ飲むんじゃなければ心配いりません。

フッ素入り歯磨き剤や歯医者で時たま塗るフッ素ぐらいじゃ別に何も起こりません。

 

ちなみに、医学を含むあらゆる自然科学系の学問はその時点でどうやら最も正しそうなことを探し出すという作業を延々とやり続けるものです。それゆえ以前の常識が塗り替えられるなんてことはざらなんです。私の臨床経験のなかですら、学校で習ったことが覆ったという事例がいくつもあります。医学は日々進歩していくものですので、臨床は「現時点で最も確からしいと思われることを行うしかないものだ」という宿命を背負ってしまうのです。それが医学の限界なのです。

 

医療に関わる人は、従来の方法に固執するのではなく、一方的な情報に偏るのでもなく、現時点での最善の選択を行えるよう情報収集をし続けていかなければなりません。たとえトンデモに思えても「でも、そう主張する人がいるって事は、もしかしたら本当かもしれない」というスタンスで、調べてみる事が大事ですね。(なかなか大変な事ですけど)

 

それから、医療に関わる人にとって、もっと大事なのはトンデモ系の人々の言説を、きちんと調べてみもしないで感覚だけで「そうだ!そうだ!」となってしまわないことです。そういう人々は何となく説得力のありそうな科学風味の理屈をうまくつけていることが多いので注意が必要です。私も気をつけたいと思います。

 

昔、主流だった治療法が今からみたら本物のトンデモでしかもホラーすぎるという内容の本をご紹介して、本稿をしめさせていただきます。並のホラー映画よりずっと怖いです。

「最悪」の医療の歴史

 

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