河内長野市の歯医者・歯科医院 ふくしげ歯科 千代田駅徒歩10分 歯周内科(歯周病治療)

ふくしげ歯科
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コノミヤ河内長野店 2階

都市伝説を検証:「フッ素は危ない」って本当?現役歯科医師が謎に挑む!

2014.07.05

先日、「銀歯のせいでUFOに連れ去られる」と訴える患者さんの事を書きました。本当にそんな方がいるのだろうかと思っていたら、あの後すぐさま連絡が入りました。昔、某大学の口腔外科に勤務していた歯科医師からです。実はその症状を訴えて来院される方は、かなりの数に上るそうで、大して珍しくないようです。

銀歯の通信方式には2パターンあるそうで

パターン1 発信系

銀歯から電波が発信されて何者かに「思考を読み取られる、行動を監視されている」と思い込んでしまうパターンです。

パターン2 受信系

発信系とは逆で銀歯で電波を受信し「常に音が聞こえる」とか「私に命令してくる」と思い込んでしまうパターンです。

不思議なことにトランシーバ型(送信も受信もする)という症状はみたことがないとのこと。そして、この症状の患者さんの治療は精神科で行うことになるようです。都市伝説だと思い込んでいたので、失礼な書き方をしてしまいましたが、悩んでいる方がこんなに多いとは思っていませんでした。

それはともかく、こないだ「保身のために歯科医師がむし歯予防を妨害しているのではないか」という疑いについてお話しましたが、今日はもう一つのウワサ「フッ素は危ない」について書いてみたいと思います。

反フッ素といえば子供に関係する某団体などが有名ですが、歯科医師の中のごく1部の人も反フッ素の立場をとっています。毎日、フッ素を使用する立場として、反フッ素の人々が一体何を言いたがっているのか知りたいと思い、色々調べてみました。だって、医療の常識というのは、日々変化し、昔は良いとされていた治療法が、実はあんまり良くなかった、なんてことがたまにあるからです。最新の情報を得て、より確実な安全で確実な治療を行いたいと思っています。

まずは科学的な証明(エビデンス)について少しばかり

話を進めるに当たって、この間読んでいた本を見ていただきたいと思います。

 

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サプリメントの代表的な成分の論文をまとめたサプリメントエビデンスブックという本です。すごく良くまとまっていて助かります。(この作業を自分でやるともの凄く手間がかかる)

下の画像はその中のビタミンEのページですが、よく見ていただくとポジティブ、ネガティブというマークがついていますね。

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栄養成分に限らず、お薬や何らかの治療法において、ある研究では「効く」という結果が出て、別の研究では条件が少し違うために「いまいち効かない」というデータが出ることがあります。また、これを使うと●●には良いけど▲▲には悪い影響が出る、というデータが出ることもあります。

そもそも、科学の世界では新しい発見が論文で発表されると、追試といって他の科学者が同じような実験や研究を行い「本当にそうなのか」を調べます。小保方氏がSTAP細胞の論文をネイチャーに発表したあと、香港の研究者が追試して「できたかも!?」→「いや、やっぱできないわ」となったのが大々的に報道されていましたよね?一つの発見にはたいてい複数の論文が存在していますので、一つの論文だけを鵜呑みにせず広く調べなければなりません。

また、皆さんからみると色々な論文はどれも同じぐらい科学的で、真実である、という風に見えるかも知れませんが、その論文(研究)自体にもランク分けがあるのをご存じでしょうか?「うちの病院でこういう風に治療したらこんな風に治った症例がありました」(症例報告)よりも「○○に関する世界中の全論文を調べてみたところ、総体としてはこういう結論になっている」(システマティック・レビュー /メタ・アナリシス)とかの方がよりレベルが高いと見なされます。これは「空港で強盗に遭ったからあの国は危ない」というのと「あの国の1年間の強盗発生件数は日本の100倍なので危ない」というのだと後者の方がより客観性、信頼性が高いわけです。でも、一般の方は、個別の事案の方が強く印象に残るので、客観的データより体験談を信頼してしまうという特徴があります。そのため「ある人が鼻血を出した」ということと「その地区で鼻血を出す人が激増している」の間に大きな違いがあることがなかなか理解されないのです。

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医療の分野ではより客観的に判断するため、ガン治療、ワクチン接種、歯周病治療、院内感染防止対策など様々な分野に関して、各学会が研究論文などを調べ上げてメリット・デメリット、研究の信頼度(ランク)を考え合わせて、ガイドラインというものを作っています。

昨今のノバルティスファーマや武田薬品の不祥事が許されないのは、こういう手続きを通じて患者さんに確実で安全な治療を届けようとしている、世界の科学の仕組みに対する挑戦だからです。

報道や一般の方によって無視されがちな要素

複数の研究があるのに、1つの研究だけ取り上げ他の研究を無視する

これは先ほど取り上げましたね。

量を無視する

昔、魚の焦げ目を食べたら、ガンになる、ということが話題になりましたが、大学の授業で、ある先生がこの問題が取り上げ「焦げ目の中に含まれるある物質を動物に投与するとガンになりやすくなった、という実験結果は事実だが、それと同じ量を摂取しようとすれば、ほれ、そこにあるあのロッカーいっぱいぐらいの焦げを食べなければいけない。それも毎日だぞ。研究結果を見るときには量や単位に注意しなければならない」と教わりました。放射線にもしきい線量というものがありますものね。どのぐらいの量が話題になっているのか、きちんと理解せず、これは危険だ、と頭から信じ込んで生焼けの魚を食べる方が、食中毒になったりしてよっぽど危険です。

毎日ロッカー一杯分って・・・

毎日ロッカー一杯分って・・・

 

反フッ素の人々の主張は?

これはフッ素に関するデータを網羅的に集め、危険性と有効性に関してまとめた本です。

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この本も、先ほどのサプリメントの本や、学会ガイドラインと同様に様々な論文を横断的に調べてあります。フッ素の使用に不安を感じる方は一度読んでみられても良いかも。特に専門家の方は文献情報がついているので便利です。まあ、結論としては、通法通りの使い方をして特に危険はないという事です。

この本の中で印象的だったのは、過去に出たことのあるフッ素を水道添加して使用すると骨肉腫が増えるという論文についてです、反フッ素の人々はその論文で理論武装していますが、冷静になってよく調べてみると「どうも、それは違うらしい」という論文も多数出されています。業界ではセンセーショナルな発表だったので、STAPの時の追試みたいに、あちこちで追調査が行われたんですね。現在の結論としては「関係ない」というところに落ち着いているようです。昔出たセンセーショナルな情報が、その後の調査で「そうでもないみたい」となったのに、いつまでも最初に出た情報にしがみついてそればっかり論拠として引用する姿勢はフェアじゃないように思います。さらに量の問題でいけば、そもそも食塩だって取り過ぎたらガンになるって言われてますけど、だからって食塩摂らないわけじゃないですよね。フッ素だってメチャクチャ摂ったらそら体に悪いですよ。何でもそうですが量と単位はとても重要なわけです。(そういう私は換算とか苦手ですが)

さて、ではこちらをご覧下さい。これは、反フッ素系の本を多数出版している出版社の育児雑誌です。ネットで調べるとどうやら小児科医の方が設立に関わっておられるようです。

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この中で、歯科医師が登場してフッ素は危ないと発言していますが、よく読んでみると結局何が危ないのかというと「フッ素を大量摂取したら急性中毒が出るよ」という事を述べていて、それ以外には何も言ってないんです。そんなこと上の本にもちゃんと書いてありますわ。「ええ、知ってますけど、それが何か?」という内容しか書かれていない。買ってしまった子育て中のお母さんはきっと本代返してほしいでしょう。私はブログ書いたので、返してもらわなくて結構です。

ちなみにフッ素中毒の基準は(財)日本中毒情報センターによると約5~10mg/kgだそうです。

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6歳児の平均体重が大体20㎏だから、歯磨き剤のチューブ(950ppm 60g)1.7本をラッパ飲みしなければ中毒を起こせません・・・って、そんなヤツおらんやろ~、ちっちきちー、考えただけでおなかいっぱい。フッ素洗口の液も歯磨き粉と同じぐらいのフッ素濃度だから、がぼがぼ飲まなきゃ中毒にはなれません。なのに「フッ素洗口は危険」とかって一体何が言いたかったんでしょう?

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そうは言っても、昔からフッ化物による急性中毒事例は存在したんです。フッ素タブレットというものを、子どもが大量にガシガシ食べたとかいうのが多かったようですね。今日本では売られていないので見たことはありませんが、お菓子みたいな味だったのかな。

というわけで、ワクチンとかもそうですが、専門家こそきちんとした情報を発信すべきです。でなければ、その方法の恩恵を受けられたはずの人が、受けることができなくなるというデメリットが生じるからです。消極的な被害というものを防ぐのも我々の重要な役割なんですね。

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