突然ですがクイズです。この、たくさんの歯ブラシセットが置かれているのは一体どこでしょう?
答えは、衛生士の専門学校です。歯科大学や衛生士の専門学校では、お昼休みになると歯を磨く女子たちで手洗い場が混み合う、という風景がよく見られます。当院チーフ衛生士原田の母校には写真のようなブラッシングスペースが設置されています。実物はもっと広く、さすが衛生士学校だと感心しました。
不思議と男子にそういう行動は見られず、歯科大の食堂を見回してみると、昼食後に砂糖たっぷりの缶コーヒー飲んだり、歯周病のリスクを高めるたばこを吸ったりで、どんだけ歯に悪いねん!という感じです。
ま、それだけ女性は習ったことをちゃんと生活に活かすということですね。
その、食後の歯磨きですが、昔から「食べたらすぐ磨こう!」とうたわれてきました。 私が大学に通っていた頃は、まだ「食べたら磨く。それも3分以内」と教わっておりました。 ところが、最近一概に良いとも言えないことが分かってきました。
エロージョン
初めて聞く言葉だと思います。語感からそこはかとなく漂うムフフな意味合いなどは全くなく、日本語に直すと「酸蝕症」というまじめくさって訳が当てられています。これは、歯の表面が酸で溶けてエナメル質がうすーくなってしまうことです。
通常は酸性の強い食べ物や飲み物で歯が溶けて起こります。まれですが、 酸性の蒸気が立ち上る工場で働く人の前歯の外側が溶けてしまったり、ダイエットのため繰り返し嘔吐して歯の内側が溶けてしまうこともあります。
酸性の強い飲食物といえば レモン、ミカン、お酢、梅干し、酸味のあるジュース、炭酸飲料、ビタミンC、乳酸飲料、ワイン などです。
意外なのは、しょう油がpH4~5(中性が7)とかなりの酸性であることと、コーラがレモンと同じpH2と強酸性であることです。
酸蝕症になると
こんな風に、歯の表面が全体に溶けてむし歯のような色になったり、実際にそこからむし歯が進行したりします。もっとひどくなると、歯の頭の部分が完全の失われることもあります。
この写真は「歯が溶ける!: エロージョンの診断から予防まで」という歯科医師向けの書籍からいただいてきました。
酸の強いものを繰り返し飲食すると歯の表面はどんどん溶けていきます。 当院の患者さんで、上の写真のようになっている方がいると「もしかして」と思って「酸っぱいものをよく食べますか?」と聞いてみると、酢の物が好きだったり、みかんを1年中1日何個も食べていたりします。いやー、本当にそんなことで歯って溶けちゃうんですねぇ。
また、講義で聞いたのは、いつも口の中が気持ち悪い感じがして、レモンのスライスを歯と唇の間に挟む習慣があったため、その部分(歯の外側)のエナメル質が全部溶けてなくなってしまった、というケースです。
そもそも酸味のあるものを食べるだけでも歯が溶けるのに、食べた直後に歯ブラシをするとどうなるかというと、歯の表面が酸で溶けて柔らかくなっているところを歯ブラシでゴシゴシこするわけですから、歯の表面がはがれてしまうんですね。酸蝕症がより早く進行するというわけです。 ですから最近では、食事の直後は、歯ブラシをしない方が良いとされるようになってきたのです。
「じゃあ、昔から言われてきた『食べたらすぐ磨こう!』っていうのは嘘だったの?」とか「どんどん言うことが変わるので信用できない」とか思われるかもしれません。、私だってそう思うので、お気持ちはよくわかります。
しかし、 そもそも医学の学説なんて 最初から間違いのない真実がわかっているわけじゃなく、その時々に判明してくる新たな事実に基づいて、よりベターな考え方へとバージョンアップしていくものなのです。 時代が進んでいく以上これはしょうがないことなのです。(やや開き直り気味)
とはいえ「今まで食べたらすぐに磨いてきた」という方も、毎日、毎食酸っぱいものを食べているわけじゃなければ、さほど心配しなくても良いのです。 現に、ふくしげ歯科のスタッフもお昼ご飯を食べたらさっさと歯を磨いていますが、酸蝕症になっている人はいません。 だって、毎日お昼ご飯に酢の物を食べたりしないですからね。