6月4日からの1週間は「歯の衛生週間」です。中年以降の方は6月4日の「むし歯予防デー」で記憶してらっしゃるかもしれません。
歯の健康に関するテレビ番組が放送されたり、啓発行事が開催されたりします。
そして、ちょうどこの時期に学校歯科検診が開催されます。
さて、この学校歯科検診ですが、終わったら各ご家庭に検診結果を紙でお知らせする仕組みになっていますよね?
むし歯の欄にチェックが入っていなければ、思わずホッとするのではないかと思います。
でも、それって本当でしょうか?ホッと一安心して大丈夫なんでしょうか?
毎年、あちこちで学校歯科検診を行い、検診結果の紙の発行元となっている私が詳しく説明いたします。
誰が検診するの?
学校には1校に1人学校歯科医という歯科医師が存在しています。要するに歯科の校医ですね。(日本学校歯科医会のサイト)
学校歯科医が単独で全校生徒を検診をする場合もあれば、学校歯科医を中心に幾人かの歯科医師がチームを組んで検診に当たる場合もあります。
ちなみにわが河内長野市は後者です。私もチームの一員として年3回ほど検診事業に協力しています。昔から歯科医師会を通じて手配が行われているようです。平日の昼間に実施するので、診療時間にバッティングするときは通常、医院を閉じて出務します。
学校歯科検診の限界
皆さんは専門家である歯科医師が診るのだから歯科医院での診察と同じだと思っているかも知れませんが、実は学校歯科検診には不利な点がいくつもあります。
1.時間が短い
多くの子供を診るので1人あたり1~2分程度しか掛けられません。特に都市部では1人の歯科医師が診る子供の数がかなり多いのでじっくり見ることは困難です。
2.見えにくい環境
多くの場合、お互いに向かい合わせに椅子に座って、歯科医師がお口の中をのぞき込む形で検診します。
(画像は川口市立安行中学校のサイトからお借りしてきました)
この写真のように、口の中が明るくなるよう、歯科医師は窓を背にして座り、さらに歯科医師の斜め後ろから白熱球の電気スタンドで光を当てるのが基本形です。
この学校は基本に忠実にセッティングしていますねぇ。素晴らしい。
このように工夫しても、口の中はかなり暗く、特に上の奥歯は非常に見づらい状況です。
暗くてよく見えないので私は個人的に医院で使用しているヘッドライトを持参していました。
程なく河内長野市歯科医師会で全員にヘッドライトを配布してくれました。
おかげで市全体の検診精度が格段にアップしたわけです。これまた素晴らしい取り組みです。
見えやすいように色々と工夫していますが、やはり歯科医院で診るのとは全然違います。
あお向けになって、歯科治療用の椅子で無影灯(影ができない仕組みを備えたライト)の光を当てると、本当によく見えます。
過疎化が激しく子供の数が極めて少ない地区の先生が「うちの地区では全員あお向けで無影灯当てて検診してるよ」と言っていました。
子供の数が多い都市部ではなかなか難しいですけど、そんな風にできたら理想的ですね。
3.レントゲンがない
そもそも、歯科の病気の大半は歯や骨といった硬い部分に起こるので、目で見るだけでは診断がつかないことが多く、きちんとした診断にレントゲンは必須です。
4.むし歯診断器がない
最近の新しい機材を導入している歯科医院では、トレンド代わり、もしくはレントゲンで見つけられない虫歯を発見するために様々なむし歯診断器を使用しています。
当院でもレントゲンと並ぶ重要な位置づけを占めていて、もはやこれ無しで診療することは不可能と感じています。
5.汚れが残っている
歯科医院で虫歯のチェックを行うときは、歯の表面がよく見えるように、あらかじめ歯科衛生士がプラーク(歯の表面のネバネバ汚れ)を歯ブラシや特別な機械を使って取り除いてくれています。
学校歯科検診でも、時々検診前に歯科衛生士が歯ブラシ指導行って歯磨きをしていることもありますが、基本的に子供たちが自分でブラッシングをしただけなので汚れがかなり残っています。
歯の表面にべったりと汚れが付いている状態だと、その下にある歯の様子がよく見えません。
結論
以上のように、学校歯科検診で歯科医師は手足を縛られたような過酷な条件のもとで検査しています。
見落としが無いように努力していますが、精度の高い検査を行うことは実質困難な状況です。
「そんなことはけしからん!」と思う人がいるかも知れませんが、それはちょっと違うのです。
なぜかというと、歯科検診というものはあくまでもスクリーニング検査だからです。
スクリーニング検査:通常、特定集団から、特定の疾病を有する確率の高い人を選別する方法。本来は「ふるいにかける」という意味。(Weblio辞書より)
学校歯科検診は「それっぽい人」「確率が高そうな人」を見つけて、精密検査に送り込むことが目的で実施されています。
そもそも病気を100%検出できる検査などというものは存在しません。
逆に言えばある一定の確率で見落としが生じる仕組みになっているのです。検診ってそういうものなんです。
というわけで、残念ながら学校で検診を受けて「むし歯にチェックが入ってなかったからもう大丈夫」とはいえないわけなんです。
学校歯科検診=ざっくりとふるいに掛ける検査
歯科医院での検診=精密検査(それでも100%ではありません)
という位置づけであることを理解しておかなければなりません。
本来、子供のむし歯は大人の何倍ものスピードで進行しますので、年1回の検診で良いはずがなく、最低でも年に3~4回は歯科医院で精密検査してもらうべきものです。
学校歯科検診はあくまでもオマケだと思って下さい。
とか言ったら怒られそうですね・・・・でもホントだからしょうがない。
歯医者さんでOKだったのに・・・・
「この間、歯科医院で診てもらってOKだったのに、学校歯科検診でチェックが入ってきた。これってどういうこと?」
あるんですよねぇ、そういうこと。
これにも秘密があって、歯科検診と言う悪条件の元、異変を見つけようとするわけですが、時として「これってどうかなぁ、○?×?どっちなんだろう?」と悩むことがあります。
そんな時は、いつも×の判定を下します。そうすれば、学校の保健の先生から「歯医者さんに行って調べてもらってください」という紙を発行してもらえるからです。これを「治療勧告」と呼びます。
もしかしたらその子は普段歯科医院に検診に通っていないかもしれません。
そんな子に○の判定を下してしまうと詳しく調べてもらう機会を逃してしまうことになります。
ですから基本、疑わしきは×なのです。
普段から、定期的に歯科医院でチェックを受けているのであれば、そちらの検査の方が信頼性が高いので心配ありません。
オマケ:歯科検診の紙に書いてあることがよくわからないあなたへ
歯科検診の結果は紙ですが、もらっても意味が分からない場合があります。
「注意の必要な乳歯があります」だなんて意味分かります?私が保護者だったらきっと分からないわぁ、と思うのでちょっとだけ解説しておきたいとおもいます。
書式は自治体や学校によって若干違いますが、基本的な内容は全国的に同じです。
<虫歯>
みなさんご存じの虫歯です。場合によっては虫歯の度合いが記入されているかもしれません。
CO(シーオー):虫歯になりかけています
C(シー):虫歯です。
○(マル):治療が完了した歯。
<喪失歯>
△:永久歯ですでに失っている歯
<要注意乳歯>
×:要注意乳歯
これがくせ者です。×なんて印が付いているので、何かよっぽど悪いものなのかと思いがちです。
しかし、実は乳歯が割れてしまったりグラグラしていたりして、そろそろ抜いたほうがいいかもしれない、と言う状況を指しているだけなのです。
この場合、その乳歯があるせいで、後から生えてくる永久歯に悪い影響が及びそうになっていることもありますので、一度歯科医師に相談してみてください。
<歯垢(プラーク)>
歯のネバネバ汚れのことです。文言としては「歯垢」「プラーク」「歯磨きが不十分」といったことが書かれています。
これにチェックが入っている場合は、歯の表面に汚れが多く付いているということですので、歯磨きの練習が必要です。
ご家庭でお母さんと一緒にやっていただくのもいいのですが、できたら歯科医院で磨き方の練習をしてもらってください。
<歯肉炎>
文言としては「歯肉炎」「歯茎に炎症があります」「歯茎が腫れています」といったことが書かれています。
程度を表すマークは
GO:歯肉炎になりかけています。
G:歯肉炎です。
歯周病は中高年の病気のように思っているかもしれませんが、子供でも歯茎のごく表面の部分に炎症が起こることがあります。
放っておくと将来歯ぐきの骨を溶かす歯周病に発展していきます。
念入りなブラッシングが必要ですので、おうちで練習するとともに、歯科医院で磨き方を習ってください。
また、歯石がついていることもありますので、歯科医院で取ってもらいましょう。
<歯並び>
歯並びにチェックが入っている場合は、一度専門家に相談しましょう。
かかりつけの歯科医師に相談するか、矯正を行っている歯科医院に相談に行くかしてください。
歯科検診で用いる歯並びに関する言葉は以下の通りです。
叢生:乱ぐい歯。歯が出たり入ったりしてまっすぐ並んでいない状態。
過蓋咬合:上の前歯が下の前歯にかぶさり、下の前歯がほとんど見えなくなってしまう状態。
上顎前突:上の前歯が下の前歯より外に飛び出している状態。いわゆる出っ歯。
下顎前突:上の前歯が下の前歯より内側に入っている状態。いわゆる受け口。
開咬:奥歯をかみしめた時に、上の前歯と下の前歯が浮いてしまう状態。
<顎関節>
口を開け閉めしたり、ものを噛んだりするときに、顎の関節に異常がある状態。
<その他>
過剰歯:普通より余分に歯がある。
先天性欠損:普通より歯が少ない。
癒合歯:2本の歯がくっついて1本になっている。
エナメル質形成不全:歯の表面のエナメル質が少ないため、歯がもろくて虫歯になりやすい。
粘膜の異常:粘膜にできものができていたりする。
小帯の異常:小帯の形がちょっとおかしい。
*小帯というのはこの唇と歯茎にくっついてる帯のようなものです。