2年に1回ぐらいの割合で患者さんからこんな質問を受けます。「先生、ベロって本当はどこに置いとくべきものなんですか?」
その昔私の母が、年配の歯医者さんにそれを聞いたら(我が家族ながらマニアックすぎる)「気にするな」と言われたそうです。当時としてはごもっともな回答だと思います。時代は下って私たちの世代は大学でベロの正しい置き場所を教わるようになりました。教わったときは学生だったので「へー、そうなんだー。歯医者の学校ってそんなことまで教えるのか」と思ったぐらいのものでした。しかし、年月が経つにつれ、その重要性を「これでもか!これでもか!これでもか!」と思い知らされるはめにおちいるなんて、当時は想像もしていませんでした。
ベロは天井!
そのとき教わったことをそのまま書くと「舌尖がスポットに当たっていて、舌背は口蓋にそっと触れていること」です。専門用語が多くてわかりづらいですね。今、私が患者さんに伝えるのであれば「ベロは天井に吸盤のように張り付いていて、ベロの先は上の前歯の後ろの歯ぐきに当たっていること」です。
それについてはこんな本もあります。
よく見ると「舌の吸盤化」という言葉が入ってますね。そうそう、それが大事なんです!この辺は後日詳しく。
絵で描くとこんな感じです。(画像使い回しなので鼻から空気が入っているのは無視してね♪)
口の中はベロで満たされている
私が臨床に出て初めてベロの重要性を認識したのは入れ歯を入れたときです。ベロの動きや形によって入れ歯の形を工夫しなければうまく話したり、食べたり、飲み込んだりできない事に気づきました。ベロの動きを邪魔するところに入れ歯があると気持ち悪くて入れ歯をついつい外しっぱなしにしちゃったりもするようです。このときに大学で習った「舌房」という言葉を思い出しました。
舌房=ベロのお部屋
要するにベロの居場所ですね。皆さんのイメージでは口の中って歯が並んでいてその内側には空洞があって、その中にチョロッとベロがある、という感じではないでしょうか?ところが口の中では意外とベロが大きな存在でして、上下の歯の中の空洞は本来みっちりとベロで満たされているものなのです。だから本来の歯並びからちょっとでも内側にはみ出した入れ歯を作るとベロが圧迫されてとっても不愉快なんですね。
骨の形や歯の形を決めているのはベロだった
歯医者になってしばらくの間は「なんとなく丸い形に並んだ歯の中にベロが収まって空間に満ちているんだな。邪魔しちゃだめなんだな。」というイメージを持っていましたが、次にその認識が改まったのは矯正治療を始めたときでした。「そのなんとなく丸い形に歯を並べているのは他でもないベロである」という事を知ったのです。まさに「目から鱗」でした。
これについては前回も書きましたが、歯並びの 「なんとなく丸い形」はベロの形だったわけですものね!
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これこれ
さらに勉強を続けていくと、ベロが、入れ歯の安定、睡眠時無呼吸、食事でむせるなどの嚥下障害、肩こりや頭痛、歯を抜かなければならなくなる事態を招く事、などにかなり直接的な影響を及ぼしている事を知り。さらに「風が吹けば桶屋が儲かる」的な連鎖で、アレルギー、リウマチ、腎臓病、高血圧、糖尿病、精神疾患などなど全身にも影響を及ぼす可能性があることも知りました。この辺になると、もはや怪しい「これさえ飲めば何でも直るぜ健康法」的に大風呂敷を広げちゃった感が否めませんが、これは後日ちゃんと解説します。
つまり「先生、ベロって本当はどこに置いとくべきものなんですか?」という質問はマニアックどころか極めて本質的な質問だったわけです。
じゃあ、どうすれば良いの?
体に正しい姿勢があるのと同じく、ベロにも正しい姿勢というものがあります。(ベロというより口の姿勢といった方が良いかも知れませんが)
●上下の唇は軽く閉じている(お口ポカンはダメ)
●上下の歯は1~2mm程度離れている(かまないことが重要)
●ベロの先っぽは上の前歯の後ろの歯ぐきに当たっている
●ベロ全体は天井に吸盤のように張り付いている
どうやったら良いかわからないときはつばを飲み込んでみてください。大部分の人にとってゴックンとつばを飲み込んだ直後の口の状態は上記4つの条件を満たすポジションになっているからです。
*註:飲み込み運動(=嚥下運動)が正常に行われていない人ではこうならない事もあります。
この姿勢だったら歯をきちんと内側から支えることができるので、もし子供なら歯並びが良くなる方向に発育するでしょう。
こないだ歓送迎会やったら、いつの間にかメンツがすっかり若返っていることに気づきました。ふくしげ歯科初の男性職員も入りましたし、女子たちもフードファイター系が数名いたりして、もう食べる量がすごいすごい!もの食いが良い集団はパワフルですので、これからが楽しみです。