皆さん、こんにちは。 先週は、東京品川で歯科医師向けに「滅菌入門セミナー」というものを主催&講演してきました。国際歯周内科学研究会1800人の会員の中で120名もの参加者がありました。うちの会員の歯科医師は平均より意識が高く、器具の滅菌も比較的しっかりしている人が多いのですが、その中でももっとしっかりやろうという意識で参加されている人が多いのが印象的でした。
沢山の来場者
あの指はなんだ?
読売新聞の「歯科の器具がちゃんと滅菌されてないみたいです」報道以降、歯科界は滅菌対策に追われているといっても良いでしょう。それまで講演会で滅菌の話を持ち出すと「滅菌?やった方が良いのは分かってるけど、ガチで大変だからなぁ」という調子だったのが、今は「どうやったら良いか教えてくれ~」という感じで、滅菌に関するノウハウを長年蓄積してきた私たちはあちこちで引っ張りだこなのです。そういったわけで何かと半殺しの状態です。
「半殺し」と言えば、大阪では餅つきを中途半端にしてツブツブが残っているものを「半殺し」と呼びます。おはぎ(ぼた餅)の真ん中に入っているあれです。一般的には「半つき」ですね。調べてみると普通の餅は「本殺し」とか「皆殺し」とか呼ぶそうで「これ半殺しにしとこか?」「いや皆殺しや」なんて会話、大阪物騒すぎ!
「きれいのたね」より
消毒・滅菌・洗浄
さて、繰り返し使用する医療用器具の清潔を保つのに「滅菌」とか「消毒」とかいう言葉を耳にされる事があるかと思います。この「滅菌」と「消毒」ってどう違うのか分かりますか?私は大学で習ってはじめて「滅菌」と「消毒」には違いがあって、それぞれちゃんと定義があるって事を知りました。
洗浄:流水下で水洗。血液・唾液・セメントなど異物を物理的・化学的(こする・溶かす)に除去。 消毒:人体に害を及ぼす微生物を殺すか、又は、感染力をなくすこと。(熱・薬剤など)病原性の微生物を限りなくゼロに近付けること。 滅菌:全ての微生物を滅殺又は、除去すること。病原性のない微生物も含まれる。
つまり、消毒は半殺し、滅菌は皆殺し、なわけですね。半殺しといっても一応病原性のあるものは全部殺すということですが。 で、処理の過程としては 洗浄→消毒(半殺し) または 洗浄→滅菌(皆殺し) という順番で行います。最終処理の種類が滅菌になるのかそれとも「消毒」になるのかは、処理するものによって違います。
半殺しでOKなもの 皆殺しじゃないとダメなもの
消毒(半殺し)でOKなもの
顔に当てて顔のパーツの位置を測る計測器具、血圧計、治療用のあの倒れる椅子、とかは別に粘膜を破らないし血液にさらされることもないので半殺しの消毒レベルでOKです。 このほかにデンタルミラーなんかもレベルの高い半殺し(高水準消毒)ならOKとされていますが、血液や唾液が付くので通常は滅菌(皆殺し)しています。
滅菌(皆殺し)じゃないとダメなもの
メス、抜歯の時に歯と歯ぐきの境目にグリグリ差し込む器具、注射の針、縫合の針など粘膜を破る器具は当然「皆殺し」の滅菌レベルが必要です。最近ではメス、注射針、縫合用の針などは、滅菌した状態でメーカーから買って、1回使ったら捨ててしまう物が多いです。 こういったもの、大昔は全部再利用で煮沸消毒していました。NHK朝の連ドラ「梅ちゃん先生」なんかでも、新人の梅ちゃん先生がこういった器具を再利用するために手入れしている場面がありました。
消毒(半殺し)や滅菌(皆殺し)をキッチリ行うために非常に重要な前提があります
それは洗浄がちゃんと出来ていることです!
洗浄がキッチリ出来ておらず、固まった血液や、その他の付着物が残ったままで、どれほど強烈な殺菌力のある消毒液や滅菌器でビシバシきびしく攻撃しても汚れの内部にいる菌やウィルスが生き残ってしまう可能性があるからです。
つまり 洗浄なくして消毒・滅菌なし なわけです。
一般の歯医者さんでは、戻ってきた器具をアルカリの液につけたり、超音波洗浄器にかけたり、手洗いしたりしてきれいに洗浄するわけです。その後、半殺しや皆殺しの処理を行うわけです。 でも、人の手で行うので結構汚れが残ってしまうというエラーがあり得るのと、洗っているときにスタッフが器具で指を刺してしまう事故が起こりやすいのです。そのせいで、スタッフがB肝やC肝やエイズといった病気に感染する事もあるんです。 その洗浄を全自動で安全にしっかり行ってくれるジェットウォッシャーという器具があるんです。 じゃじゃーん、これです!なんと買っちゃったんですね!お盆にセミナーを受講している間に、工務店の方が工事をしてくださり、無事設置することが出来ました。
おや?何かに似ていますね。
飲食店の厨房とかで見たことがあるような・・・・・
そう、見た目が完全に業務用食洗機なんです。それもそのはず、これを製造しているミーレというドイツの会社は高級食洗機メーカーなのです。ちなみにミーレの歯科用ジェットウォッシャーのページはこちら。白水貿易という輸入代理店が販売とメンテナンスを行っています。 結局、滅菌とか消毒とかにこだわり出すと、昔から患者さんごとに器具をきちんと処理するのが当たり前で、基準や罰則が厳しい欧米のものになってしまうんですよね。歴史と文化が違うので現時点では信頼性、耐久性で何歩もリードしている印象です。日本では、ほら、こないだの報道のとおり3割(実際はもっと低いはず)しかタービンの滅菌をしていない文化なので、当然国内メーカーもその方面に力が入らなかったわけです。これは、歯医者が悪いですね。作っても買ってくれなければ力が入らないのも当たり前です。
ちなみに当院で使用しているのは
治療用椅子:ドイツ製
ジェットウォッシャー:ドイツ製
滅菌器(最も能力の高いもの):カナダ製
これからは日本の歯科医院でも滅菌が普及していくでしょうから、日本のメーカーも対応に力が入ることでしょう。世界中で信頼を勝ち得るような製品をどんどん作っていただきたいものです。
ちなみに歯科専用のジェットウォッシャーの代わりに家庭用の食洗機やHザキの業務用食洗機を使用している歯科医院もたくさんあります。これはこれであらかじめ水洗いするので意味がないわけじゃありませんが、歯科専用のものと全く性能が違います。 性能の違いはお値段にも現れていて、家庭用 → Hザキ → 歯科用 と進むにつれて桁が一つずつ上がります。ってどんだけ高いのーーーーーーーー!見積もり見て倒れそうでしたもの。 でもそれなりの価値というものがちゃんとあって、食洗機とは全くレベルが違うわけです。
じゃあ何が違うのよ!
ターゲットが違う
そもそも食器と治療用器具とではターゲットとなる汚れの種類が違います。食器は油汚れ、治療用器具はタンパク汚れです。その違いにより様々なチューニングが行われています。
洗剤が違う
食洗機は油汚れターゲットの洗剤、ジェットウォッシャーはタンパク汚れターゲットなのでタンパク分解用洗剤を用います。
お湯の温度管理
血液などタンパク汚れは熱いお湯にふれるとタンパク凝固を起こします。要するにゆで卵になるあの変化です。食洗機は脂を溶かすためにいきなり熱湯を吹き付けますので血液が凝固してしまい、その後いくら洗ってもとれなくなります。それに対してジェットウォッシャーは55度というタンパクが凝固しない温度で、なおかつタンパク除去洗剤がよく働くように設定されています。
水流が違う
水流がね、もうね、すごいんですって。だって名前がジェットですから。食洗機の何倍もの水を激しく当てて洗います。
アダプターが違う
歯科用ジェットウォッシャーにはタービンなど歯を削る器具を立てる専用アダプターがありまして、タービンなどのおしりから高圧水流をドーンと流し込んで中に溜まっている血液や唾液などを洗い流してくれます。
これですわ
↓ ↓ ↓
じゃあ食洗機使ってる医院はダメなの?それよりか、そもそも手洗いってどうなの?
患者さんの安全という面では、実はどの方法でも理屈を理解してキッチリ処理すればほぼ同じように安全に出来ます。というのも、普通は食洗機に放り込む前もしくは手洗いの前にタンパク分解液につけ込んでタンパク汚れを溶かしますから、血液がべっとり付いたまま水洗いに行くことは理論上ありません。(その辺を正しく理解して処理していればの話ですが)また、タンパクを除去した後に食洗機に掛けたとすると、タンパク凝固を起こさず熱湯消毒できます。そして洗う前より遙かに安全になります。つまり専用機は「タンパクが・・・」とか考えなくてもエラーなく勝手に上々の洗い上がりになります、でも、他の方法でもしっかり勉強して手間暇を惜しまなければ安全性の確保はできるということなんです。
実はジェットウォッシャーの真の価値は、エラーの回避、スタッフの安全確保にあるのです。歯科医院ではとんがった針のような器具が大量に洗い場に運ばれてきます。それを洗う際に針刺し事故が起こる可能性があるのです。ジェットウォッシャーだと届いた器具を分厚い手袋でポンポンかごに放り込み、そのままフタしてスイッチを押せば勝手に洗い上がるわけです。何と簡単・安全・確実なんでしょう! また、スタッフが洗い場から解放されて、患者さんの応対に当たれるというのも素晴らしい点です。機械で出来ることは機械に任せて、人は人にしか出来ない仕事に専念すべきですよね。
果たしてジェットウォッシャーを買って良かったのか?
ジェットウォッシャーを買った今、はっきり言って、地団駄踏んでいます。もうね、悔しくて悔しくて!
「何でもっと早く買わなかったんだろう!!」
要するにそこです。
何てバカだったんだ、わたし!!
そう、それですよ。
私がバカなのはよく分かりましたが、たった一つ自分で自分を褒めてあげたいのは、1/10ですむからといって妥協してHザキの食洗機にしなかった事と最上位機種を選んだことです。最上位機種にのみ乾燥工程が付いているので洗い上がったものを布で拭き上げる必要がないのです。(器具に水滴が残っていると滅菌が効かないから水滴は除去する必要があるんです)医院の機材って一番良い物を買わずに妥協すると、後で必ず買い直す羽目に陥ります。これまで何度も買い直しのムダを経験してきたので、少しはお利口になったのかもしれません。
だって、主にスタッフの安全のため(サブで患者さんの安全のため)に導入したのに、洗い場に届いた器具を結局は手で処理する、とかあり得ないし、洗い上がったものを手で拭き上げるとかあり得ませんからね。
と、やけに自己正当化しつつ、本日の投稿を終えたいと思います。
患者さんに一言 : 当院の院内感染防止対策のレベルはよりいっそう安全になりました。半殺しも全殺しも上手くいって、美味しいおはぎをご提供しております。
歯科関係者に一言 : ミーレの最上位機種 超オススメ (高けど♪)